千歳~帯広、HOKKAIDOのRAILWAY
目が覚めた瞬間、自分がどこにいるのかまったくわからなかった。
福島? いや大阪? それともインドのどこかだろうか? ……ああ、なんか放送が流れてる。日本語だ。朝食がどうたらこうたら……。ああそうか、ここは日本の北海道。昨日は新千歳空港温泉とかいうところのリラクゼーションルームで寝たのだ。読みかけの「あずみ」も手元にある。あ、そうか、朝食はバイキングか。これは食いにいかないと。
バイキングは和洋選べるようだった。福島で暮らしていた旅館ではほとんどが和食だったので洋食にした。パン、ウィンナー、スクランブルエッグ、フライドポテト、サラダ、コンソメスープ、オレンジジュース。
うんめー! バイキングだし、たぶん実際はそんなにうまいわけではないんだろうけど、久しぶりに食う洋食うんめー!
そして食後のコーヒーを飲みながら考える。というか思い出した。昨日、何かを忘れているような気がしたけど、思い出した。「これからどこに向かうか」という超重要問題を忘れていたのだ。これを考えなければならないのだ。というかこれ忘れるとかやばいだろ。
しかし一晩ぐっすり寝たおかげで、脳のリソースには少し空きができた。このリソースを使って考えよう。
どこへ行こう、ということを考えても、そもそも僕は北海道の地理をほとんど知らないのである。この方向から考えてもダメだ。それよりも、何をしに北海道へ来たか、という方向から考えたほうがいい。たぶん。
何のためか。涼を求めて来たのだ。東北の夏は涼しいと思ってたのに、めちゃくちゃ暑かったのだ。炎天下で毎日肉体労働していて死にそうだったのだ。涼しいところへ行きたかったのだ。
でも苫小牧の街は福島と同じくらい暑かった。ならさらに北上するべきなんだろうか? 最北端の街へ行くべきなんだろうか? いや待て、そういうのは緯度ではなく気候であると、インドと東南アジアをまわって学んだじゃないか。ここは慎重にいこう。グーグル先生に聞いてみよう。
そうして検索した結果、最北の稚内よりも、東の釧路・根室地方のほうが涼しいということが判明した。ありがとうグーグル先生。
これでとりあえず北海道の上半分のことはしばらく考えなくていい。ここから東へ向かうルート、下半分のことだけ考えればいいのだ。よし、それなら地理も頭に入りそうだ。
まずは電車に乗って、行けるところまで行ってみよう――東へ!
JRの改札で青春18きっぷを提示する。駅員さんが「1回目です」といって、日付のスタンプを押す。へー、こんな感じなんや。
電車は少し混んでいて、僕の隣の席はすぐに埋まった。大きなスーツケースを持ったカップルの男性のほうと相席だ。女性のほうはひとつ前の席に座っている。話している言葉の響きが中国語っぽいな……とか思っていたら英語で話しかけられた。
「This is for Sapporo, right?(これって札幌行きですよね?)」
「Well...maybe. Just a moment.(うーん、たぶん。ちょっと待って)」
たぶんそうだと思うけど、僕は乗り換えの駅の南千歳に行くことしか考えてなかったので、正確なところはわからない。後ろの席の人に「これって札幌行きですか?」と確認する。……あってるようだ。
「Yes, yes, you are right.(ええ、ええ、あってます)」
「Thanks a lot.(ありがとう)」
「You are welcome.(いえいえ)」
それだけで会話が終わるのもあれなので、「Where are you from?(どちらから?)」と聞いてみた。
「Singapore. Do you live here? I mean, Hokkaido.(シンガポールです。あなたはこちらにお住まいで? 北海道に)」
「No, I'm traveling Hokkaido too.(いや、僕も北海道を旅行中です)」
「From?(どちらから?)」
いまの僕の状況だと「どこから」になるんだろうと一瞬考えたけど、自分のホームタウンは西成のような気がするので「From Osaka.(大阪から)」と答えた。彼は大阪にも旅行したことあるみたいで、そのあとしばらく大阪の話で盛り上がった。
こうして文字に書き起こしてみると、なんだか中学の英語の教科書に載ってるような会話だけど、実際、簡単な日常会話くらいなら、中学英語で十分なんだよね。
しかしもう2年以上まともに英語しゃべってなかったのに、普通に聞き取れるし、普通に口をついて出てくるもんなんだなあ、一度身につけたスキルっていうのは、そうそう錆びないもんなんだなあと、あらためて実感した。
自分の外側にあるもの――貨幣でも証券でも貴金属でも――は、いつ失ってしまうかわからないけど、自分の内側にあるもの――技術や知識や経験――は、決して失われることはない。僕はそこに、何よりも価値を感じるのだ。
さっきの彼に「Take a good journey!(よい旅を!)」といって、南千歳で降りる。
連絡橋の窓から。これがHOKKAIDOのROADか……。
乗り換えの電車までまだ時間があるのでしばらく周辺をブラブラする。お、飛行機とんどるで。
なんか土手の上にたくさん人がいた。何やってるのか気になったから行ってみようかと思ったけど、暑いし、しんどいので、道路脇でカメラを構えていた人に聞いてみたら、これからブルーインパルスが飛ぶらしい。ああそうか、駅の西側にあるのは航空自衛隊の基地か。「昨日も飛ぶ予定だったんだけどね、部品落としちゃったらしくて」とかいってた。大丈夫かそれwww
そして東へ向かう電車に乗る。ワンマン! 一両編成! うわー!
うわー!
うわあああ!
うわああああああ!?
あああああああああああああああああ!!!????
なんか……HOKKAIDO……すごいわ……。
東追分(ひがしおいわけ)駅に停車するシーン。
牧草ロールを運ぶトラック。すげーわ。生まれて初めて見る光景だわ。思わず動画とっちゃったわ。
そんな感じでしばらく鉄道の旅が続く。暑いので窓を開け放していると風が気持ちいい。でもトンネルに入るとものすごい風圧になるので、窓を一番下の段に固定した(窓を開ける高さは三段くらい選べる)。
そうするうちに何もないところで列車が止まる。なんだろうと思っていたら車内放送があった。
「列車の待ち合わせです。発車まで4分ほどお待ちください」
あれ? もしかして……と思って、待ち合わせが終わったあと、両サイドの窓から線路を確認したら、やっぱり単線だった。ああ、なんかタイの鉄道を思い出すわ。
そういやどこで降りるんだっけ……とNexus7を取り出したら、データ通信の回線(docomo)が圏外になっていた。え、うそやろ? ここJRの路線上やで? とか思いつつauの携帯を見たら、こっちも圏外だった。
そのあともしばらくアンテナを気にしてたけど、駅に着いたらアンテナは立つ。でも駅と駅の間は圏外。マジか。ここ地上やのに、地下鉄やないのに、駅と駅の間は携帯つかえんとか、なんかおもろい。
そうこうするうちに新夕張に到着。
地下道を通って改札を出る。待合室に荷物を置いてしばらく休憩してたら、駅員さんが「お客さん、これ乗らないの?」と聞いてきた。もうすぐ発車する夕張行き(新夕張から北方向)の列車のことだ。
「いや、僕は……14時だったかな? 東へ行くやつです」
へっ、おいらはひたすら東へ向かうのさ。
しかしいまは正午前、あと2時間もあるのでしばらく駅周辺をブラブラすることにした。
駅の近くにあった道の駅「夕張メロード」。
中には、食料品とか土産物とか売ってるスーパーと、薬局と、こんな展示コーナーがあった。
なんか最近、こういう歴史を学ぶのがめちゃくちゃおもしろいんだよなあ。たぶんそのきっかけは、ベトナムで戦争証跡博物館に行ったことだと思う。あそこで衝撃を受けて、帰国したあと「東西冷戦とは何だったのか?」ということを調べるうちに、いつのまにか経済学の世界に足を踏み入れていて、そうすると政治にも興味が出てきて、ああそうか労働と政治は直結してるんだなってことがわかるようになってきて、つまり、自分が毎日やってるような労働と、議会で行われるような政治、それらを――まだ不完全ではあるにせよ――結び付けられるようになったというか。そういうことが少しずつわかるようになってくると、さらにいろんなことを知りたくなって、このブログの最初の記事で宣言したように、僕はいま、大学を目指しているわけです。それでなんでいま北海道を放浪しているのかは謎なんだけどねwww
夕張メロンの栽培方法。
プロジェクトXの夕張メロンの回を流してた。暇だったから全部見てしまった。
「夕張メロン」って銘打てば、なんでも観光客が買うと思ってるんだろうか。そんなものに釣られクマー!
くやしい。
でもちょっと市の財政再建に貢献できたかもしれない。
そろそろいい時間になったので駅に戻ると、構内放送が流れていた。
「帯広行き、ただいま3分遅れで運行しております。到着までもうしばらくお待ちください」
都会のほうは秒単位で正確だけど、こういうもんだよなあ鉄道って。
新夕張~新得間は普通列車が走っていないので、特例で特急の自由席に普通運賃で乗れる。つまり青春18きっぷで乗れる。
自由席とはいえ、やっぱり普通列車とは格が違った。車内はめちゃくちゃ綺麗で、なんか車内販売まであるwww
そういや本物の特急に乗るのは生まれて初めてかも。京阪の特急は特急料金いらんやつだしwww
新幹線とかも乗ったことないんだよなあ。なんかホント考えてみれば未体験のことありすぎるわ。
新得駅に到着。
次の普通列車まで1時間以上あるので街をブラブラする。
あー、ええ感じの小川やー。水遊びしたい。
なんか懐かしくなる道。
北海道らしいまっすぐな道。
なんぞこれwww
なんか懐かしくなる小さなショッピングセンター。
暑すぎるのでガリガリ君を食いながら駅前の木陰にあるベンチで涼む。ここでしばらくボケーッとしてたらいい時間になってた。
そしてまた電車に乗って、さらに東へ。今度は二両編成やで!
中はさっきと同じ。北海道の普通列車はトイレ付きなのがいい(左手前に見えてる壁がそう)。
そしてまたいろんな駅を過ぎ……。
いろんな風景を過ぎ……。
もう日も傾いてきたころ、だんだんと都会の風景になってきた。これがOBIHIROか……。
帯広駅。めちゃくちゃでかくて綺麗。
ここからさらに電車を乗り換えて東へ向かえば、21時半には釧路に着くんだけど、もうしんどかったので今日はここで夜を明かすことにした。
ブラブラ歩いて街の様子を見てまわる。
24時間やってる健康ランドとかはなさそうだなあ、今日は野宿かなあ、と思いつつ、でも風呂は入りたかったので、駅の南にある温泉へ行く。
上は普通のマンション。その地下に温泉がある。
あまり広くないし綺麗でもないけど、いいお湯でした。
ここのサウナでテレビ見ながら年配の人とちょっと世間話したけど、北海道なまりで新鮮だった。
北海道に入って驚いたのは、みんなしゃべりが標準語なことなんよね。東北の人も字面自体は標準語なんだけど、イントネーションがやっぱり東北な感じの人が若者でも多くて。でも北海道はイントネーションも完璧に標準語。えー、マジかー、なまらとかいわへんのかー、とか思ってたけど、やっぱり年配の人は北海道なまりで、なんか安心した。こっちも完全に関西なまりだしwww
湯上がりの体を冷ましながら駅の北側を歩く。人の気配を感じるほうにフラフラと歩いていったら、通りに夜店がズラリと並んでた。さっきから浴衣着た人が多いなとは思ってたけど、祭りなんかな?
七夕祭りらしい。
ふなっしーがおった。
アーケードをブラブラしてたらストリートミュージシャンが阿部真央の「貴方の恋人になりたいのです」を歌ってたのでしばらく立ち止まって聞いた。これ懐かしいなあ。生駒の山奥にドブさらいに行ってたとき、車のラジオからよく流れてたわ。
それでどうもこの辺(駅の北側)が繁華街らしいから、ネットカフェを探してたんだけど、ない。え、マジか、こんな繁華街なのに……と思ってブラブラ歩きながらずっと探してたけど、やっぱりない。飲み屋たくさんあるのに、終電逃したらどうするんだろう。
しかたないので駅の南側にある24時間営業のマクドへやってきた。とりあえずビッグマックセットを注文。今日はここで寝よう。追い出されたら野宿する。