2014/08/16
旭川、神が組んだプログラム
修道士たちは五、六世紀にはやくもアイルランドの西海岸を出航し、船を漕いで到着していたのである。軽い小枝のフレームに牛革を張って作ったカラッハという小型の無甲板船で出発し、海の向こうになにかがあるにしても、それがなんであるかわからぬままに、世界でもっとも危険な海のひとつを渡っていったのだ。アイルランド人修道士たちは命を賭けていたし、おびただしい数の命も失われたが、富や個人的名誉をもとめたわけではなく、専制君主に代わって領土を拡張するためでもなかった。偉大な北極探検家でノーベル賞受賞者フリチョフ・ナンセンが指摘したように、「こうした驚くべき航海はもっぱら……この世捨て人たちが浮世の騒ぎや誘惑に悩まされることなく、平和に暮らすことのできる人里離れた場所を発見しようとする願いから企てられたものなのである」十九世紀に入って、一握りのノルウェー人たちが最初にアイスランドの海岸に現れ、修道士たちは住民が多くなりすぎたと考えた――まだ人はほとんどいなかったにもかかわらず、修道士たちがとった対応は、カラッハに乗りこんで、グリーンランドに向けて漕ぎだすことだった。彼らはただひたすら精神的な飢えと、現代の想像力ではとても思いおよばない奇妙で強烈な憧れに駆りたてられて、荒れた嵐の海に乗りだしていき、既知の世界の果てを越えて、さらに西をめざした。ジョン・クラカワー「荒野へ」pp.159-160
今日も彼は街角のベンチに座ってサックスを吹き、猫は気持ちよさげに聞きいる。いつも通りの平和な光景。
今日は旭川市街の観光でもするかなーと思いつつ、平和通買物公園をブラブラと歩く。
通りでは「たいせつマルシェ&アートマルシェ」というイベントをやってた。
駅前で建設中のこれはイオンモールらしい。
駅の南側にやってきた。テラス席とかあって、なんかおしゃれな感じ。
駅南側に広がる北彩都ガーデン。めちゃくちゃ綺麗に整備されてて、歩いてて気持ちいい。
橋の下のスクリーン。今日はいい天気だ。
クリスタル橋を渡って、旭川市博物館へ向かう。
博物館の入り口では昭和の暮らし展示コーナーがあった。
これ電卓か! でかい! しかもニキシー管! すげー!
自分でハンドルまわして絞るタイプの洗濯機。僕が子供のころはすでに二層式だったから、実際に見るのは初めて。
そして博物館の常設展へ。まずはアイヌ文化の展示から。これはアイヌの住居。
暗い家の中に入ると、おばあさんの語り(歌)が始まり、少しずつ明るくなる。こういう仕掛けはおもしろい。アイヌの人々は文字を持たず、歌によって伝承を後世に伝えてきたのだ、ということが実感できる。
アイヌの交易コーナー。「経済」というのは古代からある仕組みなんだよなあ。
生活に必需でないこういう装飾品の類が価値を持つっていうのも、昔からなんだよなあ。しかも異国のそれが権力の象徴になるっていうのも興味深い。左に立つアイヌのリーダー像は、ロシア製と見られるコートと靴、中国製の絹の服を身につけ、日本製の刀を手にしている。交易によって手に入れた異文化の産物の多くは、アイヌにとって威信と名誉の象徴である宝(イコロ)とされ、この宝を多くもつ富裕な者からリーダーが選ばれていた。リーダーのなかには多くの隷属民(ウタレ)を抱える者もおり、神格化されてときに神(カムイ)と呼ばれていた。アイヌの活発な交易活動の主たる動機は、名誉と威信をもたらすこの宝の入手にあったといってよい。案内板より
衣服のコーナー。
アイヌの人々はこの小刀(マキリ)ひとつで調理したり、狩猟用具を作ったりしてたそうな。
アイヌ神謡集。なんかどっかで読んだことあるような気がする……と思ったら、これ岩波文庫から出てるやつの原稿か。すごい独特の世界観だなあと思った記憶がある。こんなところで再会するとは。
階下では縄文時代の土器とか、さらに時代をさかのぼった展示。うわ、和同開珎がある。恵庭市(札幌のちょっと南)出土とか書いてあるけど、マジか。これ千年以上前の貨幣やで。
昭和初め頃の師団通り4条交差点の模型。この「師団」通りが、現在は「平和」通買物公園って改名されてるところに、ものすごい意味を感じる。
昭和20年代の本。タイトルからして、北海道の独立を啓蒙するような本かな。めっちゃ読んでみたい。
この「北海道移住手引草」もめっちゃ読んでみたい。どんなこと書いてあるんだろ。
特別展では「北の海の記憶~バイダルカのルーツを探る旅」というのをやってた。
アリューシャン列島の先住民アレウトが航海に用いた皮船『バイダルカ』。復元したバイダルカ・スリーハッチの製作過程から、写真家 佐藤雅彦氏が自らバイダルカで実際に宗谷・抜海から利尻・礼文まで航行した様子を写真パネルで紹介します。あわせて北海道立北方民族博物館が所蔵する、北方の先住民が用いた舟の模型コレクションを展示。かつて、かれらがオホーツク海や日本海、北太平洋を活発に往来していたことを解説します。パンフレットより
これを見ていて、どうして人はより遠くへ、命の危険をおかしてまで旅に出るんだろう、と考えていると、なぜかふいにあの映画の曲を思い出した。
And Osiris and the gods of the NileHedwig and the Angry Inch - Origin of Love
(そしてオシリスとナイルの神々は)
Gathered up a big storm
(巨大な雨雲を巻き上げ)
To blow a hurricane
(嵐を吹き荒れさせた)
To scatter us away
(僕らを散り散りにするため)
In a flood of wind and rain
(雨と風は洪水のように)
And a sea of tidal waves
(海からは大波が押し寄せる)
To wash us all away
(僕らを地表から洗い流すため)
もしかしたら、災害も、貧困も、迫害も、何かより大きな目的のための必然なのかもしれない。すべては仕組まれて(programmed)いるのかもしれない。
この旅を始める前の、あの焦燥感を思い出す。ひとりきりであてのない旅に出る、その孤独や不安をかき消してしまうほどの、強烈な焦燥感。
それはきっと神が生命に組み込んだ、最も低レイヤーのプログラムなのだ。
そのプログラムに突き動かされて、僕はいま、旅をしている。そんな気がする。
博物館の裏手は広々とした公園になってて、家族連れがたくさんいた。
そして道の駅へ。ここにはフードコートがあるらしい。
「ヤキトリツヨシ」という店名で、看板には「豚肉自慢」とか書いてある。「ひよこ」、「ニャーン!」のAAみたいな。北海道ではこれがデフォなのか。
とりあえず注文してみた。うまいので細かいことはどうでもよくなった。
腹ごなしにまたブラブラ歩く。農産物直売所あさがお、というのがあったので入ってみる。
「あさひかわの水」を買ってみた。やべーわ。旭川の味がするわ。たぶん。
大通りから住宅街へ入る。
外国樹見本林にやってきた。
散策路にはコルクみたいな柔らかい木片が敷き詰められてる。
いろんな国の樹木が植えられてるけど、たぶん樹木マニアでもない限り、「へー」以上の感想は出てこないと思うw
そしてまた駅南側にある北彩都ガーデンに戻ってきた。
ここ、ホント綺麗に整備されてるなあ。
そして科学館「サイパル」へ。北彩都ガーデンからも天文台が見える。
常設展示室ではいろんな科学体験ができる。これは自転車で風を起こすコーナー。
巨大なシャボン玉の中に入れるコーナー。子供向けのものばっかりなので、ちょっと居心地悪いwww
人類の進化の系譜。順番に窓を覗きこんでいくと、ホモ・サピエンスのところが鏡になってて(つまり自分の姿が映って)、「おっ」と思った。こういう発想はすごい好き。
屋上にはさっき見えた天文台。すげーかっちょいい。星もちょこっと見せてもらった。昼でも見れるんやね。
屋上からの眺めもいい。
そしてプラネタリウムへ。科学館に来たのはこれがメイン。
プラネタリウムって生まれて初めて来たけど、かなりすごかった。マジで満点の星空を体験できた。ラオスのシーパンドーンで見た星空に匹敵するわ。
ここは一般番組の他にも「Eternal Return -いのちを継ぐもの-」という映画もやってるので、それも見た。壮大なスケールの星と命の物語だった。ちなみにニーチェはまったく関係なかった。
ドームシアターってどんなもんなのかと思ってたけど、ホントに全天使った映像作品なのね。基本的にメインになる方角はあるけど、どこに視線をめぐらしても映像があって、大迫力だった。
こうやってこれ以上ないほどの俯瞰の視点から世界を眺めると、人間の一生ってなんなんだろうなあと考えてしまう。生まれて、産んで、死んでいく、命の連鎖。でも自分の生涯はたった一度きりしかない。世界の始まりは自分が生まれたときで、世界の終わりは自分が死ぬとき。
そういう悩みは十代のころに済ませろという人もいるけど、でもこの「自分の命をどう使うべきか」という問題は、何歳になっても考え続けなければいけないんだと思う。ともすれば忘れてしまいがちなその問題を、このプラネタリウムが思い出させてくれた。
そして夕暮れの中、帰路につく。
平和通買物公園に着くころにはもう暗くなってた。
「梅光軒」で醤油ラーメンを食べる。なんか麺がめっちゃうまい。スープがうまい店は多いけど、麺がうまいってのはなかなかない気がする。
さて、明日はどうすっかなー。